(もしも、あの来訪がなければ、今の自分の去就は変っていただろう。あのままカガリの側にいたとして、連合との条約締結を撥ね除けさせることができたとは思えない。そしてカガリから遠ざけられ、彼女をオーブから連れ出すこともできなかっただろう…俺にはこうするしか、道はなかった)
そんな『もしも』は無意味だと知りつつ、考えずにはいられないアスランだった。オーブとも戦わなければならない日もそう遠くはない。自分の選択が間違っていたとは思いたくないが。
カガリの事を頭から追い出すために、アスランは子供たちから視線を外そうとした。
「あーもーそんなに引っ張るなよ」
聞き覚えのあるハスキーな女性の声に、アスランは目を見張った。
「早くー。お客さんだって、あの赤い服の人」
子供達に手を引かれ、肩くらいの長さの金髪を揺らして走ってくる姿は、知っている女性のもの。
「待たせてすまなかった、手が離せなくて…!?」
長袖のTシャツに作業ズボン。ラフな格好が却って彼女の上品な整った顔だちや、しなやかな体型を目立たせていた。風貌を裏切る会いに来た客への荒い言葉遣いは以前と変らない。
「…アスラン?」
「カガリ…」
名前を呼んだきり二人して黙ってるのは、端から見ている子供にはとても滑稽に見えただろう。
「お客さんにはお茶出さなきゃー」
子供に指摘されて我に帰るカガリ。
「あ…うん、そうだな、二つ、頼めるか?」
「入れてくるー」
「お前こぼすからボクするの」
「火傷するなよ」
子供たちは騒ぎながら建物の中に入っていった。やがて危なっかしい手付きで「お茶」を運んでくる。
「ありがとうな、二人とも。私はお客さんと大事な話があるから、向こうでみんなの晩飯の用意を手伝ってきて」
「はーい、またあとでねー」
子供たちから受け取ったお茶のカップをカガリが手渡してきた。少しだけ触れる指。そこから心地よい暖かさが伝わってくる。
カガリは建物の方を振り返った。
「寒いな。中で話そう」
アスランは建物の中に招き入れられた。外見から想像したよりも、中は壊れていなかった。通信機やモニターの載った机に椅子にソファ、暖を取るためのストーブにサーバーが乗っている。家具らしい物はそれだけ。奥にドアがあるのは洗面所だろう。狭い部屋だがそれなりに整頓はされていて、さほど乱雑な印象はない。
カガリは椅子に座ってアスランの赤い軍服と胸の徽章をじっと見つめた。軍に身を投じたことを責められてる気がして、居心地の悪い思いを抱きながらアスランは、ソファのひじ掛け部分に軽く腰をおろした。
「赤い服の軍人が来たって聞いてはいたが、まさかアスランだったとはな」
「俺も驚いたよ。こんな時にこんな所で会うとは」
まさか、の言い方が非難めいて聞こえて、アスランの心に小さな棘が刺さる。
「正直、驚いたよ…オーブのことは」
嫌味な物言いになるのは、オーブがプラントと敵対している現状は、カガリが国を放置していたせいだと、アスランが思い込んでいるからだった。
「ああするのが…一番だと思った。その考えは今も変らない」
「で、今は、何してるんだ?」
「することがある」
「すること?レジスタンスの子供の面倒見ることか?オーブは?あんな条約結んで、オーブをまた戦火に包む気か!?」
「…あの条約は戦うためのものではない」
「同じことだろ!なんで!中立を捨てたんだ…」
カガリは苦笑のような表情を浮かべた。「言われなくても判ってる」という感じの。
「お前の用件は何だ?デュランダル議長はどんな命令でお前をここに寄越した?」
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