警戒されていることをアスランは察した。議長の穏健派らしからぬ強引な政策や戦略が、戦いを嫌うカガリの気に障っていると推測する。
「ここのレジスタンス組織への支援の申し出だ」
「なるほど…ザフトの作戦の遂行のために、プラントの味方は増やしておいた方がいいってことか。西ヨーロッパの情勢も最近、複雑になってきたからな」
「カガリがここにいるという程、複雑じゃないさ」
「ま、そうだな」
そう言い放つカガリの清々しいまでの居直りに、アスランは苛立った。
「それで、カガリは何故ここにいるんだ?あんな条約を結んで、オーブはプラントと敵対する気か?AAやキラはどうした?」
「…言えると思うのか?ザフトの軍人に戻ったお前に」
「俺はただ…心配していただけだ!」
アスランのいら立ちを横に流し、カガリは組み合わせた手の上に顎を乗せ、目を閉じた。それがアスランには祈っているような恰好に見えた。
「…実は知らない。キラも私がここにいるのは知らないだろう」
「知らない、のか?」
「AAと連絡はできる。でも、あえて、音信を絶っている。危険だから」
「いつからいるんだ?」
「ここの彼等と知り合ったのは数年前…お前と会うより前だな」
「そんなに以前から?」
このレジスタンスが反ザフトである可能性に、アスランは不安を抱いた。事実、数年前のカガリは反ザフト的な立場を取っていたのだ。だが、現在のオーブ自体はともかく、その国を出たカガリの立場が微妙な今、それだけはないと思い直す。
「数カ月前に連絡取り合って、こうして厄介になっている。流石に戦闘に直接参加はしていないが、戦う彼等を手伝ってるんだから、同じことか」
ここのレジスタンス組織に関して軍から得ていた情報をアスランは頭の中で反芻した。
『小規模ながらここ2・3ヶ月の間に組織だった動きを見せ始め、現地の地球連合軍を手こずらせている』
まさか、議長は誰がここにいるのかを知っていて、自分をここに向かわせたのだろうか、との疑問が沸き上がる。だがその考えは否定した。知っていればアスランに任務を言い渡した時に言うだろう。これは偶然だ。
「これからも連合軍と戦い続けるだろう、彼等は。彼等が戦争によって奪われたモノは果てしなく大きい。戻らないものもあるが、戦う事で取り戻せる、そして守れるモノがまだ彼等にはあるんだ」
俺もそのつもりだった、と、アスランは言いたかった。
「戻らないのか?AAには。キラが心配してるだろう」
「キラに会いたくない…」
「え?」
「本当はお前にも…会いたくなかった」
「どういうことだ、カガリ!?…判るように話してくれ」
その時。
「ご飯できたよー」
先刻の子供が部屋に飛び込んできた。
「お客さんもどうぞって」
「…そうだな。用向きの話の続きは食事の後、皆に言ってくれ」
「…ああ、了承した」
その完全によそよそしい喋り方に釣られて、同じように抑揚のない喋り方をする自分が我ながら滑稽だ、とアスランは溜息をついた。
|
|