ガンダムSeedDESTINY


再会5



 食事のため大きな建造物(元はホテルか何かのロビー)に集まったレジスタンスは、皆が壮年から初老の男たちで、彼等にとってカガリは娘のようなものらしかった。そんな雰囲気を感じ取って、アスランは安心した。
 簡単だが暖かい食事を終えて、見張りの交代に行った者以外は火を囲んで暖を取り休憩している。その中でアスランは本来の任務の本題に入った。
「ザフトは地球連合軍への反抗組織であるあなた方への支援を考えている」
 一同の反応は「ふーん」だった。この申し出は予想の範疇であるが半信半疑、といったところ。
「あなた方は良くも悪くも地球連合軍に少なからず損害を与えてきた。このまま地球連合が放置しておくとは思えない。この先も戦い続けるかどうかを抜きにしても、我々の支援は有用だと思えないだろうか?」
「プラントの申し出は有り難い。だが…」
 カガリの態度が更に硬化している事にアスランは気付いた。
「戦火を拡大させて地球連合の戦力を削ぐ、というのが目的ではないのか?ならば、それを受けるわけには到底いかない」
 普通なら単なる確認のための返答なのだが、議長…ザフトへの不信感故の発言に違いなかった。
「断じてそんなコトは目的ではない!」
「現にザフトは『積極的自衛権の行使』の範疇を逸脱していると思える。支援を考えてくれたのは本当にありがたいと思っているんだが…今、ザフトの協力を我々が受けてしまったら、不必要に連合を刺激しかねない」
「このままでも充分に刺激していると判断するが。ならば協力を受けた方がいいのではないか?」
「強引だな。そういう性格には見えないが」
「なんで俺の性格の話なんだ!?」
「人の考えばかり力説してると、いざという時、押しが弱くなるぞ」
「よ、余計なお世話だ!」
 話がかなり逸脱してきた二人を、周囲はニヤニヤと笑いながら見ていた。
「…クッ、クッ…あっはっは!」
 ついに吹き出したのは、アスランをここに案内してきた初老の男だった。
「カガリ、もう、いい。ちょっと、そいつに真面目に話させろ」
「私だって大真面目だ」
 男はアスランに、向き直る。
「お前、やっぱり不器用だったんだな」
「え…?」
「3隻同盟に加わったザフトの『英雄』を、ここでも知ってる奴はいるんだぞ?アスラン・ザラ」
 彼等がアスランを知っていたことに、カガリもアスラン自身も驚いた。
「そんなお前がわざわざ来るんだ。例え、ザフトが戦火を拡大させようとしているとしても、お前は、そうじゃないんだろう?」
「もちろんだ…いや、議長だって、戦火の拡大なんか目指していない。俺が言っても信じてもらえないのだろうか?」
「お前が自分達の指導者を信じるのは当然だ。しかし俺達にも、議長を全面的に信じられない理由がある。カガリにも、な」
 カガリは黙り込んだ。そんな彼女の様子を見ながら、ここの何人かはカガリの素性を裏では知っているに違いないと、アスランは思った。この初老の男もきっとそうだ。
「それで、だ。お前なら信じてもいいところだが、他のみんなはどうだ?」
「私の意見はさっきの通りだ。後はみんなで考えてくれ。私はそれに従う。子供達を寝かせてくるよ」
 その場を離れるカガリの後ろ姿が見えなくなると、男達は目配せをした。
「悪いが、席を外してもらいたい。ここからは俺達だけで話し合いたい」
 アスランもそれを了承し、その場を離れることにした。解答を待つ間休息する場所を提供すると言われ、例の初老のレジスタンスが案内に立つ。向かっているのは、カガリの寝起きしている小屋の方向だった。
「なぁ、アスラン・ザラ」
「はい」
「カガリがオーブの姫だって、知っているな?」
 男には、アスランの素性を知っている事と同様、カガリの素性を知っていることも隠す気はなかった。
「知っている…先の大戦で共に戦った…戦友だ」
 相手の信用を得るためには、己の手札を曝さねばならない。それが彼等の術なのだ…彼等は政治家等ではないのだから。だからアスランも、彼等に自分を隠す事はしなかった。
「あの子と子供達をプラントへ連れていってくれないか。ここを出るだけでもいい」
「なぜ?」
「ここはもうすぐ戦場になる」
「…もうすぐ?」
「あの子には黙ってたが、連合軍を見張ってた仲間から動きが怪しいと連絡があった」
「切羽詰まってるのか」
「ここ数日が正念場だ。俺らはもちろん抵抗するが、あの子がそこまで俺らに付き合うことはない」
 偶発的な衝突や小競り合いでなければ、ここの武力では連合の勢力に抗し得ない。
「あなた方は…脱出はしないのか」
「それは俺達が既に決めたことだ、あんたが俺らに力を貸してくれると言うなら、あの子と子供らを頼みたい。子供がここにいちゃいけないと、そう言ったあんただから託すんだ」
「なぜ、そうまでして…戦うんだ」
「あの子供たち、何か気付かなかったか?あんたから見て」
「…いや、何も」
「そうか…あの子らは、ナチュラルとコーディネイターとのハーフだ。両親はブルーコスモスに殺された」
 あまり一般の知る所ではないが、ハーフの存在はアスランも知っていた。ある意味、純粋なコーディネイターよりもブルーコスモスの標的となりやすい。
「俺達とお前達、平和に暮らす事ができるんだぜ?なのにそれを認めない、と連合は言うんだ。だから俺達は逃げるわけにはいかない。お前をここに呼んだのは正直、賭だった。頼まれてくれるな?それとも疑ってるのか?」
「いや、しかし…」
「言っておくが、俺達は死ぬつもりではないんだぜ。ただ、かなり危険になるからあの子らを護りたい。それだけだ」
 それはアスランを無理矢理納得させるための方便だったろう。しかしアスランは応じるしかなかった。
 やがてカガリと子供達のいる小屋の前に着いた。男は小瓶を手渡しながらアスランに「頼んだぞ」と念を押し、仲間達の元に戻った。